やがて君になる 11話 感想&考察!作中の2つの”残酷な言葉”と彩る描写達
第11話「三角形の重心/導火」
ーいいよ。沙弥香なら、いいよ。(燈子)
伝えられた衝撃の事実は燈子の「これまで」を消してしまうような大変なものでした。市ヶ谷さんとの会話は、このアニメの中でも屈指の展開だったように思います。
というわけで、やがて君になる 第11話「三角形の重心/導火」の感想と考察になります。11話までのネタバレがあるので未視聴の方はご注意を!
(注意:管理人は原作未読です。ご了承を)
やが君 11話のあらすじ・ネタバレ
2泊3日の合宿が始まります。劇中の記憶を失った少女は”自分”を知ろうとしますが、人によって少女の人物像は異なります。こよみは結末に未だ悩んでいる様子です。
3人で入浴し、同じ部屋で寝て。それぞれが2人っきりだったら相手に手を伸ばしてしまいそうな自分を実感し、「3人で良かった」という思いを胸にします。
2日目は指導役として、市民劇団のメンバーで澪と同級生だった市ヶ谷がやって来ます。劇に向けて”完璧”な動きを見せる燈子に、市ヶ谷は「生徒会長はのんきにしているものだと思ってた」と言います。
市ヶ谷の帰り際、燈子は澪の人物像を聞きます。市ヶ谷の語る澪は燈子の思っていた”完璧”とは程遠いものでした。市ヶ谷は「姉妹の割にはあんまり似ていない」と告げます。
夜は花火をします。様子がおかしい燈子に侑は複雑な表情を浮かべますが何の言葉もかけられません。沙弥香は線香花火を持って燈子の話を聞こうとします。
沙弥香は市ヶ谷がOBであることを知っていました。燈子は「沙弥香なら、いいよ」と告げ、自分の知っている姉と市ヶ谷の語る姉の像が異なっていたことを伝えます。
2人で話し、星空を見つめます。燈子と沙弥香の姿を見た侑の表情はーー。
以上です。
11話の感想と考察
見るのがどんどん辛くなっていく…何なのこれ。
市ヶ谷が燈子に告げた言葉は残酷なものでしたが、燈子が沙弥香に伝えたその言葉はもっとー。
ぶれ始めた「姉」という存在
とにかく11話内の最大のポイントは市ヶ谷と燈子の会話でした。
何事も完璧にこなす隙のない人間を澪であると信じて疑ってこなかった燈子に、市ヶ谷は彼が見てきた澪という存在を告げます。
大勢の前では「頼りになる」存在でしたが、生徒会メンバーの中では…。更には、燈子に「姉妹の割には澪と七海さんはあんまり似てないな」という言葉を告げます。
姉を失い、「お姉ちゃんの分まで」と周囲に言われ続けてきた燈子。
昔はショートヘアだった髪型を、ロング(=澪の髪型)にした燈子。
演説の前は震えるほどの感情になっていた燈子。
”完璧”を追い求め、誰にも負けない成績を取りつづけてきた燈子。
特に、演説の前の燈子の様子については今だから見えてくるものがあります。
あの演説は燈子にとって人生をかけた一大イベントだったんですね。もし生徒会長になれなければ、燈子が自分で思う「存在意義」が失われることになります。
1話からの彼女の姿を思えば思うほど、市ヶ谷の発言は辛いものがあります。
特にしんどかったのが、「君の方が立派に生徒会長してるよ」の部分です。普通はこんなことを言われると嬉しく感じるはずです。しかし、燈子の表情は…。
やり場のない思いをどこに告げればよいのか。自分が追い求めてきた”理想”だった姉の姿は全く異なるもので、目指した方向性から違っていました。
彼女にとって”生徒会長として”立派であることには何の意味も持たないんですね。
燈子の声色、目が死んでいく姿からも彼女の気持ちの沈み方を理解することができますが、蝉が飛んで行ってしまった部分にも目が離せません。
市ヶ谷を送る際、序盤の部分では虫の鳴き声が響き渡っています。
しかし、市ヶ谷の回想が進むにつれ虫の音が聞こえなくなる場面が出てきてます。そして、上記の「君の方が立派に生徒会長してるよ」のタイミングで蝉は飛び去り、虫の音は一切聞こえなくなります。
蝉が何を指しているのか考察しきるのは困難ですが、個人的には蝉が飛んで行ったことに意味があると思います。
市ヶ谷も歩いて先に進んでしまい、蝉も飛び去った状況を用意することで、燈子が1人で絶望の淵に立っていることを効果的に表現したものではないかな、と。
道路に立ち尽くす燈子の姿は、蝉を飛び立たせ、虫や風景の音を無くしたことでいっそう辛いものとなっているのではないでしょうか。
沙弥香に告げた言葉と線香花火
11話もう1つの見どころは燈子と沙弥香の会話です。花火で盛り上がる1年生勢をしり目に、沙弥香は燈子の傍に線香花火を持って座ります。
沙弥香と腹を割って話す前の燈子の線香花火は、すぐに地面に落ちてしまいます。彼女の心の中の動揺が見え隠れしている描写です。
その後、沙弥香は市ヶ谷と澪の話を切り出します。
この場面での燈子の目が…。目がアップになるシーンはどうしても8話の「嬉しいってどういう意味?」発言とかぶるものがあります。
しかし、燈子は澪の話を沙弥香にし、「沙弥香ならいいよ」と伝えます。
一連の会話の中での沙弥香の持っている線香花火のつき方が面白く、燈子に踏み込んで地雷を踏んだような場面では花火の火が少しだけ引っ込み、燈子に「いいよ」と言われた際に、線香の玉が大きくばちっと響く描写があります。
沙弥香の心情(地雷踏んだやべえ→燈子に認められた///)が見事に表現されています。
…と、沙弥香は喜んでいるようですが(実際に顔も赤らんでいる)、6話を見た視聴者サイドからすると燈子の「沙弥香ならいいよ」という言葉を額面通りには受け取ることができません。
燈子は、侑に自分の過去に踏み込まれた際、侑という存在自体を否定するほどの反応を見せていました。一方、沙弥香に対しては「沙弥香ならいいよ」と伝えます。
この発言の意図は
〇好きな侑には踏み込まれたくないけど、友達の沙弥香になら構わない
〇沙弥香は最後まで踏み込んでくることはないという安心感がある
という2つが要因になっているように思います。
前者は11話の中で嫌と言うほど燈子→侑に矢印が向いていたことを表現してきた”オチ”になりますし、後者は1話から一貫して「見守ってきた」沙弥香という存在を簡潔に表しているといえます。
11話では、侑は燈子に何も言えず、逆に沙弥香は燈子にはじめて踏み込みました。侑が花火をする直前の表情が辛すぎます。
侑にとって、燈子に踏み込みたいけど、踏み込めば”終わってしまう”状況です。
だから、侑は何も伝えないことを選択しました。それが、燈子の言う「優しさ」です。でも、そのもやもやした感情はいつか爆発するかもしれないからーー。こう考えると燈子の「優しさを使いつくしてしまうのが怖い」という発言も理解できます。
劇の結末にこよみが不満を持っている理由とは
こよみが作成した劇の台本の結末は、最終的に恋人が語る少女像を主人公が受け入れて終了する、というものでした。
こよみはこの結末に「違和感がある」と言っています。その要因を考えてみます。
①その人の印象や像は、見る人によって異なるのに固定するのは変(11話とリンク)
②その人を好きな人からの評価は、その人を”束縛している”といえる(6話とリンク)
普通に考えると、11話の主軸(燈子が自分の知らない姉の姿を知った)を基に、1人の人間の人物像を1人の意見によって決めてしまうことはおかしいという意味合いの引っ掛かりのように思います。
恋人が語る少女の人物像は、「自分の前では泣き虫で、甘えたがりの女の子だった」というものでした。
当然、恋人は相手のことを好きなことが普通です。
燈子の言葉を借りるのであれば、「好きは束縛する言葉」になります。恋人は泣き虫で甘えたがる少女が好き=その姿で縛りつけようとしている、とも読み取れます。
「相手にこうあってほしい」という1人の人間の姿で一生を生きていく…。
果たしてそれは幸せなことなのでしょうか。
サブタイトル考察(11話版)~”導火”したものは一体何?
11話のサブタイトルを簡単に考察してみます。
Aパート:「三角形の重心」
こちらは比較的意味も類推しやすく、人によっても解釈は大きく異なることは無さそうです。重心は物体のつり合いが取れている点のことを言います。
侑・燈子・沙弥香の関係が3人であるからこそ成立している、という意味合いのように自分は感じました。その証明のように、Aパートは3人でいる姿が多く見られました。
寝室ではそれぞれが自分を律していましたが、全員が「3人でよかった」という思いを持っています。今はまだ、つり合いが取れていますが今後は…。
Bパート:「導火」
言葉自体には
火薬を爆発させるための火。くち火。
(引用:導火(ドウカ)とは - コトバンクより)
という意味合いがあります。今回、この言葉に当てはまると思われるものは2つありました。
①導火=市ヶ谷の言葉によって、燈子の感情(=火薬)が揺れ動いた
②導火=沙弥香の行動によって、侑の嫉妬心(=火薬)に火が付いた
どちらの意味合いでとってもよさそうです。
②については、10話のドーナツ屋での会話からの流れを汲んでいます。
10話のやり取りは
侑「確かに恋人役は佐伯先輩が一番納得ですよね。1年の男子がやったらめちゃくちゃ文句言われそうですし」
燈子「侑も何も言わない?」
侑「言いませんよ、何も」
燈子「だよね!」
というものでした。侑は燈子を好きではないという前提のもと、嫉妬心が無いを確認したのに、今回沙弥香と燈子の会話を見た侑の表情は…。
今後が不安で仕方ないよ、僕は!!
ちなみに、10話でサブタイトルの考察が無かったのは難解過ぎて諦めたからですw
10話のサブタイ考察は10話記事内で紹介したygkmさんのブログ記事ほか、べーさんのコメントがとても印象的だったので紹介しておきます。
べーさんのコメント
・逃げ水
これは自分の中ですっきりする部分があります。逃げ水はそもそも単語として「夏の蜃気楼」という意味があるらしく(wiki調べですが)、「蜃気楼」の部分がポイントと言えそうです。
今回の10話で蜃気楼(≒幻、幻想)に当たるものといえば、(1)燈子にとっての姉 (2)燈子から見た侑 の2つが考えられると思います。
個人的には(2)のほうが本命で、「そこにあるように見えるけど実際には存在しないもの」を燈子と侑の立場で考えてみると、燈子から見る侑は「自分のことを嫌いにならない、でも好きにならない」存在である一方、侑は燈子への気持ちが存在している。。燈子が求める侑は蜃気楼になっていることを示したサブタイかなぁと思っています。
(引用:当ブログ10話記事「べー」様のコメントより)
既に燈子が求める「侑」では無くなっている…すごすぎる解釈です…!
その他描写紹介
最後に2点ほど、描写紹介をしておきます。
①大浴場(欲情)での目線
侑が脱いだとき、その姿に顔を赤らめる燈子さん。侑が「お先です」と言った際には目を合わせないようにして…。
で、湯船で目をつぶっている侑をチラ見!思ったよりあるとかいう感想!このちらっと見るところがもう…。
合宿ってすごいという名言、いただきました。
②侑が選んだ花火の色
8話のアジサイから続く色のお話ですが、花火の色も侑は青(=燈子の色)を選んでいましたね。
無意識なのか、狙っての事なのかは分かりませんが、一貫した描写でとても素敵です。
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というわけで、やがて君になる11話の感想・考察でした。
ここにきて物語は大きく動き出しました。非常に胸が痛む展開が多いですが、残り2話、最後まで見守っていきます。
また、この場でygkmさんとづかさんの記事を紹介させていただきます。
「沙弥香の行動の理由」が本当に分かりやすい記事でした。更に、蝉の考察は自分の記事のものとは少し違いますが、自分の記事と合わせて読んでいただくとより面白いと思います!
名前の漢字の考察は恐れ入ります…。流石ポケモンマスター!笑「瞳の揺らぎ」を皮切りにした考察は丁寧でとても分かりやすいものになっているのでぜひ!
自分でいうのもおこがましいですが、私の記事と上記2ブログ、そして自分の記事に寄せられたコメント(ここまで読んでくれた方は絶対コメントも読んでほしい!)を見ることでよりいっそう「やが君」ワールドに浸れると思います。それぐらい面白い記事と深いコメントでした。
また、放送終了後の記事ですが、BD特典に沿ってそれぞれのエピソードの自分の記事の採点?みたいなことをやろうかなと考えています(予定)
冬アニメの記事数次第になりますが…。できるかなぁ。それでは、この辺で。
【追記:12話の感想と考察はこちらから!】